約 3,031,805 件
https://w.atwiki.jp/palette_stone/pages/15.html
インカローズ(ロードクロサイト) モース硬度:3.5-4 ☆パワーストーンに秘められた力/パワーストーンがもたらす意味☆ 愛と情熱の石・持ち主に積極性と自信を与える 愛情を具現化する知恵や行動力を与えてくれる 情熱を呼び覚ます htmlプラグインエラー このプラグインを使うにはこのページの編集権限を「管理者のみ」に設定してください。 意味一覧表に戻る htmlプラグインエラー このプラグインを使うにはこのページの編集権限を「管理者のみ」に設定してください。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7242.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 ――降臨祭最終日:ガリア王国・プチ・トロワ―― 暖かな陽光に照らされる廊下を、一人のメイドが二つの膳の乗った台車を押しながら歩いていた。 一つ膳の上には、焼きたてのふっくらしたパン、色取り取りの野菜のサラダ、肉汁の垂れるローストチキンなどが乗り、 もう一つの膳の上には、暖かな粥の入った大き目の皿、塩の入った瓶、スプーンなどが乗っている。 メイドは廊下の突き当たり、このプチ・トロワの最奥に位置した豪華な扉の前に立ち、ノックをする。 「誰だい?」 中から少々生意気な感じのする少女の声が聞こえた。 「朝食をお持ちしました、イザベラ様」 メイドはそう答え、扉を開けようと取っ手に手を掛ける。すると…、 「ま、待て!? 入って来るな!!」 その言葉にメイドは怪訝な表情を浮かべる。 朝食を持ってきたのに”開けるな”とはど言うことだろうか? そういえば…とメイドは他の召使達から聞いた話を思い出す。 随分前から、イザベラが自分の部屋に人を入れないようになったのだ。 三度の食事を届ける時だけでなく、用事を言い付ける時もわざわざ自分から部屋の外に出て話をするのだ。 部屋の掃除も、最近はペットの三匹の幻獣と一緒に自分でやっているらしい。 勿論、それまでのイザベラを知っている人からすれば、これらは異常な事態である。 高慢で我侭、非情な性格のイザベラが、自分の部屋の掃除をメイドにさせないなどありえない。 そんな事を考えていると扉が開き、イザベラが顔を出した。 「ご苦労だったね。じゃ、さっさと戻りな」 言いながらイザベラは台車を引っ掴むと、部屋の中に引きずり込む。 メイドは不思議そうな表情でイザベラに尋ねる。 「あの、イザベラ様?」 「何だい? わたしは”戻れ”と言ったはずだよ…」 イザベラはメイドを睨み付ける。 本来ならばその一睨みでメイドはこれ以上無い恐怖を味わい、飛ぶような勢いでその場を去っていただろう。 だが、不思議な事にメイドは然程恐怖を感じなかった。 …イザベラの睨みに凄みが無いのだ。いつもの相手を見下すような、憎悪するような感情が一切感じられない。 代わりに今の彼女から感じる物…、それは”焦り”だ。 何故だか解らないが、今のイザベラには余裕が無い。メイドはそれなりの人生経験からそれを感じ取った。 「どうかしたのですか?」 「いいから! 帰れ! 今直ぐに!」 イザベラの焦った叫び声が、朝のプチ・トロワに響き渡る。 メイドはそんなイザベラを見つめ、小さくため息を吐いた。 こんな態度は普段ならばしない。 今のイザベラが彼女には、癇癪を起こす小さな子供と何ら変わりなく見えたからだった。 「何かお困りな事があれば、その時に。それでは失礼します」 小さく会釈し、メイドはイザベラの前から去っていった。 イザベラは鼻息も荒く、扉を勢いよく閉めた。 「ったく…、わたしが言う事に大人しく従っていればいいのに…どいつもこいつも」 「のほほほほ、いつもと態度が変わりすぎているのですから…変に思っても仕方ないですよ」 暢気な声がイザベラに掛けられる。 イザベラは深くため息を吐き、声の主を睨み付ける。 「…誰の所為だと思ってんだい?」 「のほほほほほほ♪」 楽しそうに大笑いしたのはジョーカーだった。 イザベラの天蓋付きのベッドに横になりながら、片手をヒラヒラと振っている。 先のタルブにおけるジャンガとの大喧嘩の末に大怪我を負い、今はイザベラの部屋で療養中である。 その全身には絆創膏やら包帯やらが巻かれ、実に痛々しい。 イザベラはベッドへと歩み寄る。台車はペットのジャイアントムゥが押してきた。 「まったく……あんたが見た事無いほどの大怪我負って戻ってきた時は、わたしは本当にビックリしたよ。 あんたがそんなになるなんて考えた事も無かったからね…」 イザベラは思い返す。 ボロボロになったジョーカーが自分の部屋に戻ってきた時、イザベラは心底驚いた。 こいつは見た目も性格もふざけているが、色んな意味で油断ならない。 こんな大怪我を負って帰ってくるような事態は今の一度たりとも無かったのだ。 慌てたイザベラはベッドに彼を寝かし、慌てて大量の包帯や水の秘薬などを取り寄せたのだ。 無論、自分の部屋で何をしているかなどは一切秘密にして。 だが、どうして秘密にするのか? それは、使い魔ごときに献身になっている姿を見られたくないからに他ならない。 そんなのは彼女のプライドが許さなかった。 故に、ジョーカーの傷が治るまでの間、イザベラは人の立ち入りを禁じたのだった。 イザベラは台車に乗った膳の一つをベッドの横のテーブルに置く。 瓶に入った塩を粥に適度に振り掛けると、粥の入った皿とスプーンを手に取る。 粥を掬い、ふーふーと息を吹きかけて冷まし、ジョーカーの口元に運ぶ。 「ほら、食べな」 「これはどうも。では遠慮なく」 口に寄せられた粥が無くなっていく。…閉じたような口でどうやって食べてるのか、甚だ疑問である。 スプーンが空になると、次を掬って口元へ運ぶ。そんな事を繰り返していると粥は空となった。 「おかわりはいるかい?」 「いえ、もう十分ですよ」 そうかい、と呟き、イザベラはもう一つの膳を手に取り、自分の朝食を取る。 「あ、そうです。イザベラさん?」 突然、思い出したかのようにジョーカーが口を開く。 「何だい?」 「お外のご様子はどうでしょうか? 今、アルビオンの方は大変な事になっているようですが…」 その言葉にイザベラは怪訝な表情になる。 聞きたがる理由は解る。今、アルビオンに居るだろう”親友”の事が心配なのだろう。 だが、こんな大怪我を負う原因となった相手の事を未だに慕い続けるその感覚は、彼女には理解し難い物があった。 「なんだってそいつの事を心配するんだい…、もう喧嘩別れしたんだろ?」 イザベラの言葉にジョーカーは笑う。 「とんでもない!? ワタクシとジャンガちゃんは深~い絆で結ばれてるんですよ。 それがどうして”あの程度”で切れたりしますか? いやいや、有り得ませんネ」 これほどの大怪我を負ったというのに”あの程度”呼ばわりとは…、イザベラは半ば呆れかえってしまった。 大きくため息を吐く。それを見て、ジョーカーは口を開く。 「イザベラさんだって、心配なんじゃないですか?」 「…何がだい?」 「シャルロットさんの事ですよ」 その言葉にイザベラの両目が開かれ、口元にパンを運んでいた手が止まる。 「な、何でわたしが、あのガーゴイル娘を…心配しなきゃならないんだい? あの娘は裏切り者だよ? 死んで清々はするけど、心配なんか微塵もしてないね」 そして、思い出したかのようにパンを握る手を動かし、イライラを発散させるが如く食い千切る。 それを見つめながら、ジョーカーは、ぷぷぷ、とさも可笑しそうに笑う。 その笑い声にイザベラは、キッと睨み付けた。 「何が可笑しいんだい!?」 「いやいや、イザベラさんも可愛い所が在ると思いましてネ…」 「んな!?」 イザベラは開口する。 「実の所、ワタクシ全部知ってるんですよ…、貴方がガーゴイルや人形と言って表は罵りながらも、 その裏でそんな態度しか取れない自分に悩んでいる事を。いやはや、悩めるお年頃ですか…ピュアですネ。 もう、素直に謝りたいのに謝れない…、そんな自分にイライラして周りに当たる…、そして更に落ち込む悪循環…。 いやはや、素直になれればどれだけ楽になれるやら…。 イザベラさんも本当に大変ですネ…、のほほほほほ―――ギニャァァァーーーーーーーッッッ!!!?」 響き渡るジョーカーの悲鳴。イザベラが包帯の一部を取り去り、瓶の中の塩を擦り込んだのだ。 それを行っているイザベラは無表情…、尚の事怖かった。 一通り擦り込み、イザベラはジョーカーの顔を真っ直ぐに睨み付ける。 「おい、わたしが何だって? もういっぺん言ってみろ、ええ、おいこら!?」 乱暴な口調で問い詰める。 ジョーカーは死にそうな表情で声を絞り出す。 「な、何でもないです…イザベラさん…」 「フン!」 大きく鼻を鳴らし、イザベラは自分の席で朝食を再開した。 それを横目で見ながらジョーカーは呟く。 「まぁ…冗談抜きで心配なんですよネ、お互いに…。いえ…ただの杞憂だと思うんですが、嫌な予感がするんですよ…」 その言葉を聞きながら、イザベラは無言で食事を続けた。 ――同日:アルビオン大陸・軍港ロサイス―― 降臨祭最終日、軍港ロサイスは人で溢れ返っていた。 誰しもが恐怖に駆られた表情をし、我先にと船に乗り込んでいく。 キメラドラゴンの群れと大量のボックスメアン、その双方によってシティオブサウスゴータは壊滅的打撃を受けた。 今回の襲撃によって出た死傷者は連合軍や町の住民を含め、数万人…もしくはそれ以上とも言われている。 怪物同士の同士討ちが無ければ、あの街に居た者全てがこの世には居なかったかもしれない。 同士討ちの隙を突く形で、何とか軍港ロサイスまで連合軍や避難民は退避できた。 だが、それで全てが解決したわけではない。 退避の際の偵察の竜騎士の報告によれば、首都ロンディニウムより敵主力部隊の出撃が確認されているのだ。 タイミングから考えても、先の化け物による襲撃はアルビオン側による物だという事がよく解った。 ぐずぐずしている暇は無い。 ド・ポワチエ等首脳部の人間がいない為、臨時で指揮を取っていたアニエスは本国に退却の許可の打診をした。 だが、事情が飲み込めていない王政府からは許可は出ない。 それでいきなり怒るほどアニエスも子供ではない…、彼女にも本国の人間の考えは解った。 それまで連勝を続けていた軍が突然の化け物の乱入で壊滅し、今は敗走しているなど確かに信じ難い事だろう。 しかし、事実なのだ。このままでは座して死を待つばかり。 アニエスは半日を掛けて本国と折衝し、漸く許可を出させた。 普通の軍人ならば無許可での撤退準備などしないだろう。 アニエスは折衝と平行して撤退の準備を進めていた為、半日が経過した今でも順調に事は進んでいた。 罪を問われるかもしれない…などの考えは彼女には無かったのだ。 ロサイスに臨時で設置された司令部で、アニエスは兵站参謀と話し合っていた。 アニエスは兵站参謀に尋ねる。 「撤退の完了までどれだけ掛かりそうだ?」 「何とも言えませんが…予め進めていたのが幸を制しそうです。おそらく、今夜までには…」 「ギリギリと言ったところか…」 敵の進行速度がどれほどのものかは解らないが、今夜までにここに到達するのは不可能だろう。 折衝と撤退の準備を平行して行ったのはやはり正解だった、とアニエスは思った。 と、誰かが司令部に入ってきた。偵察に出ていたジュリオだ。 「戻ったか。どうだ、敵軍主力の様子は?」 もし、敵軍の進軍速度が予想以上に速かったら…、アニエスの脳裏に悪い予感が一瞬過ぎる。 が、その予感は大きく外れた。 「それがね、随分とおかしな事になってるみたいだよ?」 「何だと?」 アニエスは竜騎士から報告を聞いた。 「敵主力が引き返してるだ?」 ジャンガは眉を顰める。 ジュリオは、ああ、と頷く。 彼はアニエスに報告をした後、その足でジャンガ達の所へと来たのだった。 「変な話だと思うだろ? こちらは化け物達の襲撃でガタガタだ。それを見越して彼等は軍を動かしたに決まっている。 なのに、途中で引き返し始めた。絶好のチャンスを自ら放棄したんだ。変と思わない方がおかしい」 ジャンガは顎に爪を添えて考える。 何故、敵の主力は引き返したのだろうか? キメラドラゴンやボックスメアンとの同士討ちを恐れた? いや、それなら動かす意味が無い。 こちらへの挑発行為? それも考え辛い、意味の無い行為だ。 ならば…引き返さなければならないだけの事態が起きた? では、全軍引き返させるだけの事態とは何だ? 暫し考え――そして思い至った。 「鳥篭の鳥が逃げたんだな」 「鳥?」 タバサが聞き返す。 「ねぇ、それってどう言う事? 鳥って何の事よ?」 ルイズの言葉には答えず、ジャンガは準備運動を始める。 「な、なにしてるのよ、あんた?」 「ちょっと行って来るゼ」 「行くって、何処に行く気なのよ?」 ジャンガは振り返らずに答える。 「敵主力のところだ」 一同全員驚愕する。…何を言っているんだこいつは? 「ま、待ちたまえ!? 君は本気で言っているのか? 四万はいるぞ、敵の主力は!?」 「そうよ! 引き返してくれるんだったらいいじゃないの、放っておきなさいよ!? だいたい、途中のシティオブサウスゴータには、まだあの化け物達が居るでしょ?」 ギーシュとキュルケが慌てた調子でジャンガに言う。 それらを聞きながらジャンガは首の骨をコキコキと鳴らす。 「姫嬢ちゃんが逃げたんだよ」 「「「「「「え?」」」」」」 「だから、奴等が引き返してるのは脱走した人質を確保するためだろ。主力が出てるって事は城は殆どもぬけの殻…。 そんなんじゃ、逃げた鳥を捕まえるのは難しい。だから引き返させたんだ」 「そんなの…解らないじゃない?」 ルイズの言葉にジャンガは笑う。 「キキキ、ああ解らないゼ」 「ちょ、解らないって、あんたね!?」 「だから確かめてくるんだろ? 何かあったらこいつで知らせてやる」 言いながら取り出したのはンガポコだった。先の艦隊決戦の際、ガーレンのメッセージを届けた奴だ。 艦隊決戦の際にメッセージを届けさせたが、その後もこうした事態を想定して手元においておいたのだ。 「じゃあな、ちィとばかし行って来るゼ」 言うが早いか、返事も待たずにジャンガは風のように駆けだした。 ジャンガは限界以上の速度で走り続ける。 「相棒、敵の主力は本当に女王陛下の脱走で引き返したと考えているのかい?」 背中のデルフリンガーの声にジャンガは静かに返す。 「さてな…、正直解らねェ。今しがたも言ったがよ、だから確かめに行くんだよ」 「だがよ、脱走が本当だったら、連れて帰るのは危険じゃねぇか?」 「…だよな」 面倒くさそうな表情で、頭を爪で掻きながらジャンガはぼやく。 「ま、そん時はそん時で考えるゼ」 「行き当たりばったりだな…」 「ウルセェ…」 そんなやり取りをしている間に、あっという間にシティオブサウスゴータへとジャンガは到着した。 ジャンガは一旦立ち止まり、シティオブサウスゴータの様子を見る。 建物は倒壊し、辺りからは火災の名残である黒煙が立ち上っているが、火災そのものは収まったようだ。 デルフリンガーが鞘から飛び出す。 「如何するんだ相棒? 遠回りするか?」 「いや、突っ切る。ここまで走ってきて解った。ガンダールヴの速度なら簡単に撒ける」 そう言ってジャンガはシティオブサウスゴータの中に突っ込んだ。 ジャンガは入ると同時に、キメラドラゴンとボックスメアンの攻撃を受けるとばかり思っていた。 だが、実際はそんな事は無かった。…それ以上に驚くべき光景も広がっている。 「…寝てるだと?」 あちこちに醜悪なキメラドラゴンの姿があった。だが、そのどれもが寝ている。 いや、どんなに不気味な姿の化け物でも生物ならば寝るのは当然だ。だが、少々不自然なのだ。 普通に地面や瓦礫の上にねそべっているのもいれば、飛んでいる最中に落下したとも思える格好で瓦礫に埋まるものもいた。 更に奇妙な事にボックスメアンも活動を停止していた。 どの機体も瞳の光が消えており、操る者がいない操り人形のように地面に崩れ落ちている。 何故だ? 人間の兵は戻して、これらは何故活動を停止させる必要があった? と、ジャンガは視界の端に気になるものを見つけた。 それは幻獣だった。無論、ジャンガの世界のである。 マジックマギ――嘗て学院でジョーカーが放った幻獣。 それも一匹だけでなく、あちらこちらに何匹もいる。 何でこんな所に居るのだろうか? マジックマギは一匹一匹がキメラドラゴンの前に立っている。 時折杖を振ると青白い雲がキメラドラゴンの頭上に現れる。 「ありゃ『スリープ・クラウド』だな。眠りの魔法だよ」 背中のデルフリンガーが呟く。 その言葉から察するにどうやら”こっち”の魔法のようだ。 何故マジックマギが使うのか…など愚問だ。 どうやら、キメラドラゴンが眠っているのはこいつ等が原因の様だ。 ボックスメアンの方は直接マスターコンピューターのスイッチが切られているのだろう。 勿論、それは”どうして眠っているか?”の理由の答えであって、”何の目的で眠らせているか”の答えにはならない。 ジャンガは暫く辺りの様子を伺っていたが、気にせず走り出した。 「いいのかよ、放っておいて?」 「構わねェよ。寧ろ、俺には大助かりだ」 「…この間と同じだな」 いつの事だ…とは聞かなかった。タバサを助けに行った時、見張りの兵隊達が眠っていた事を指しているのだ。 ジャンガはそれを行った犯人に大体見当はついていた。 だが、今回のは何故だか違うような気がする。…ならばどうして? となるが、考える必要も無い。 今はとにかく突っ切るのみだ。 息を切らせながら、アンリエッタは力の限り走った。 街の路地裏を走り、物陰に身を潜めながら周囲の様子を伺い、また走る。 ハヴィランド宮殿を脱出してからは、ずっとこんな調子だった。 そのまま連合軍がいる所まで逃げきろうと考えていたが、現実はそうそう上手く事を進ませてはくれない。 脱走した自分を捕まえるべきだろう…、前線に出ていただろうアルビオン軍がロンディニウムへと引き返してきたのだ。 軍は今、総出で街を捜索し、自分を探している。 竜騎士が空を飛び、トロール鬼などの亜人が表通りを徘徊するのが見えた。 アンリエッタは呼吸を整え、改めて外の様子を伺う。 今度は周囲に気配は無い…。アンリエッタは裏路地を走り出した。 その瞬間、肩に激痛が走った。 痛みに足を縺れさせてしまい、地面に転んでしまった。 見れば肩口にマジックアローが刺さり、傷口から血が流れている。 そこに三人ほどのメイジが現れた。アルビオン軍なのは間違い無い。 一人が下卑た笑みを浮かべながらアンリエッタの髪を鷲掴みにする。 「あぐっ!?」 肩口の傷と髪を無理やり引っ張られる痛みに声が漏れる。 痛みに汗を流しながら、それでもアンリエッタは気丈に目の前のメイジを睨み付ける。 男は笑った。一国の女王と言えど、こうなればただの小娘だと、嘲笑った。 悔しさに唇を噛み締めながらも、アンリエッタは杖を振ろうとする。 だが、別のメイジに杖を持った手を強かに打たれ、杖を落としてしまった。 抵抗の術を奪った三人はそのままアンリエッタを乱暴に立たせる。 一人の首が落ちた。 一人の胴が裂かれた。 一人が血反吐を吐いて倒れた。 突然、命を落とした三人にアンリエッタは訳が解らず、ただ呆然と三人の屍を見つめる。 その屍の向こうに長身の影を見た時、アンリエッタは安堵感を覚えた。 「ジャンガさん…」 相手の名を呼びながら思わず涙を浮かべる。 ジャンガは特に何を思うでもなく、アンリエッタに近寄ると背負った。 デルフリンガーの鞘は多少邪魔だろうが、そこは我慢してもらう。と言うよりも、文句は言わせない。 「テメェで掴まってろよ? 俺は両手使いたいんだからよ」 「は、はい」 肩口はまだ痛むが、掴まっている事が出来ないほどではない。 ジャンガの首に回した手に僅かに力を込める。 瞬間、ジャンガは疾風のように駆け出した。 路地裏を駆け、表通りを突っ切り、立ち塞がる者は毒の爪で片っ端から切り伏せた。 そのまま街の傍に広がる大きな森の中へと逃げ込んだ。 暫く走り、適当な大木の陰で立ち止まると、様子を伺う。 遠くからアルビオン軍の兵士の声が、上空からは竜騎士の乗る竜の羽ばたきや鳴き声が聞こえてくる。 だが、こちらには気が付かない様子だ。 ジャンガはアンリエッタを背から下ろし、自分も腰を下ろした。 「やれやれ、まさかとは思ったがよ…本気で脱獄するとは思わなかったゼ。キキキ、お転婆もここまでくれば上出来だゼ」 「わたくしも必死でしたから……痛っ」 肩口の痛みがぶり返してきた。 傷を庇うように手で覆う。 「手酷くやられたもんだな…」 「…向こうも色々と余裕が無いのでしょう。貴族としての誇りも品性もなくなってきているのでしょうが…」 アンリエッタは先程の男の顔を思い出し、歯噛みする。 ジャンガはそれを見ながら息を吐き出す。 「とりあえず…現状報告しとくか」 懐からンガポコを取り出し、起動させる。 『ン、ンガ?』 目を瞬かせ、ンガポコは起動した。 ジャンガはそのンガポコを見下ろしながら言った。 「メッセージを頼むゼ、伝言ロボ。『姫嬢ちゃんは無事だ。そっちの脱出船の最終便が出そうになったらこいつで連絡よこしな』 以上だ。軍港ロサイスに居る、タバサ嬢ちゃん達に届けな」 『ンガ!』 一声大きく返事を返すとンガポコは空へと飛んでいく。 飛び去っていくンガポコを見て、アンリエッタはジャンガに尋ねる。 「あの、今のは?」 「俺の世界の伝言ロボ。お前らに解り易く言えば、伝書フクロウなんかと変わらねェよ」 「いえ、そうではなく、脱出船とは?」 「ああ…その事か。知らないのか?」 アンリエッタは首を振る。 連合軍がこのアルビオンに来ているのは知っている。 だが、脱出船とは…敗走しているのだろうか? ジャンガは事情をかいつまんで説明した。 降臨祭の最終日になってシティオブサウスゴータに化け物が現れた事。 化け物の大暴れで連合軍はボロボロになり、避難民と共に軍港ロサイスまで退却した事。 今は撤退の真っ最中だと言う事。 自分は敵主力が後退した理由を調べに来た事。 「あの、では何故戻らないのですか?」 「お前バカか?」 いきなりバカと言われアンリエッタはムッとなったが、直ぐに怒鳴る事はしなかった。 「どう言う意味ですか?」 「今の状況考えろ。敵さんは全員お前を探す事に夢中になっている。つまり、お前が連中を足止めしているようなものだ。 実際、お前が足止めになったお陰で撤退の準備は滞りなく進んでるんだ。 このまま真っ直ぐ向こうに戻ってみろ…、敵も全員撤退中の味方の所に呼ぶはめになるぞ?」 「あ…」 アンリエッタは己の迂闊さに項垂れた。 自分は今敵に追われているのだから、ロサイスに戻ればそこまで敵が来るのは明白な事実だ。 確かに、今戻るのは危険と言える、ジャンガの読みは正しい。 「解りました。…でも、いつまでこうしていれば良いのでしょうか?」 「だから、その為にあいつを飛ばしたんだよ。撤退の最後の方で逃げられるようによ。 空に逃げれば連中も流石に追い辛いだろ」 「それはいつ頃になるのですか?」 「さてな…、とにかく待つだけだ…と。敵が此方にやって来たらまた走るからな」 そう言ってジャンガは大木に寄りかかると目を閉じた。寝てはいないだろう。 アンリエッタはため息を一つ吐き、自分も大木に身体を預けた。 今は少し休もう…、アンリエッタも目を閉じた。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/wiki15_tamariba/pages/17.html
主にもどき板内公式スレッドを参考に、チャット内で出た些細な案もまとめていくようにしましょう。 Wiki はあくまで情報のまとめにとどめて、意見交換などは現行スレでお願いします。 もどき板内公式スレッド 現行:大型パワプロサイト立ち上げ正式計画 ★1 概要 今は故き「パワスク」の後継(相当)サイトの作成。 過疎ってるたまり場。への燃料投下? コンテンツ草案 最新作実況パワフルプロ野球13決定版、14開幕版の攻略や事前情報の掲載 13開幕版以前の過去のパワプロ作品のデータ掲載 応援歌パスワードの掲載(掲示板で公募)、MIDIなどで試聴できるシステムならば人は集まりそう。 裏技、PARコード、最強選手の掲載(厨引き寄せには効果的。誰かできれば頼む) 企画(オーペナ、オリジナルチーム対戦、エキシビジョンマッチ)も多く入れたほうがいいかも。 劇ぱわ、俺ペナの導入も視野に入れておこう。 情報収集はみんなで頑張ろう。2chから情報を仕入れるのも効果的かもしれん。 雑談掲示板(フリー雑談・野球総合雑談・パワプロ雑談)はパワスクと同じスタンスで。 攻略掲示板(サクセス・ペナント・マイライフ等)も同じように。ここはゲスト投稿可にしましょうか。 上記二つの掲示板はパワスクの掲示板と同じサーバ組み込み型フォーラム掲示板が最良かと。 掲示板が発展するかどうかに新サイトの成長とたまり場の活性化がかかっていると思う。 IM(インスタントメッセージ)機能はもちろん入れるべきでーすーよーねー!!ww 査定掲示板(選手査定掲示板は上の二つとは分けたほうがいいと思う。) 選手投稿掲示板(復活前のパワスクではこれが地味に盛り上がってた。厨釣りには有効。) お絵かき掲示板(これは外せないかと。常連の引き込みや交流には大いに役に立つ。) お絵かき掲示板はレンタルのよりも機能的にはパワスクのようなタイプの方がいいですかね? レンタルならすぐに出来て便利な事は便利ですが、過去ログの表示とかむりっぽそうですし。 チャット(もちろんたまり場とは別物のサイト住人用チャット。) 連絡・質問用掲示板(まぁ管理と兼ねて住人からの意見を聞いたり。) ネットゲーム待合掲示板(ハンゲとか人浪の待ち合わせに使えるかも。) チャットはIP表示のある旧たまり場方式が良さげかもしれませんね。 今のたまり場でもいいですが、ここは話し合ったほうが良さそうです。 チャットコマンドは一部の住人(安全性を考えてたまり場住人)にのみ伝えておけば便利かと。 役割 情報収集 コンテンツ作成 サイト(掲示板)管理 交流
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2182.html
5 アルビオンの長い夜 傭兵に絡まれながらもスカボローの港に辿り着いたルイズたち一行は、入国検査官に身分の証明を行い、それを経て町の一角にある宿に部屋を取っていた。 貴族というのは便利なもので、普通の平民が検問で面倒な手続きをしなければならないところを身分の証明をするだけで通過できてしまう。ルイズたちの場合は、魔法学院の生徒を示す伍芒星が刻まれたタイ留めが証明に当たり、ワルドはグリフォンの刺繍が施されたくらい色のマントがそれだ。使い魔、という身分の才人は付き人と言ってしまえば検査官は首を縦に振る。 お粗末な管理体制、といいたいところだが、国と国との間を行き来する人間をいちいち数えていたらきりが無い。国から出入国の制限が出されたり、スパイ容疑の欠けられた人物が近くに居るという情報でも流れない限り、大抵はこんなものだ。 スカボローの町はあまり大きくは無い。 アルビオンにおける通商交易の中心地と言えば聞こえはいいが、アルビオン自体が空中に存在していることから輸送費は膨大なものとなるため、交易自体が大規模化しないという問題を抱えている。 トリステインの港町ラ・ロシェールと違って、岩を削って町が作られているというわけでもないため、観光要所があるわけでもない。そのため、スカボローは小ぢんまりとしたささやかな町としての姿を誕生当時から維持していた。 僻地でもなければ大抵の場所にある貴族向けの宿は、そんな小さな町にも存在している。 一級のメイジが三年の月日をかけて作り上げたという高級貴族の屋敷を思わせる巨大な建造物を本亭とした“最も高き空”亭は、創業120年を掲げ、このスカボローで唯一と言って憚らない高級旅館だった。 とは言え、他の宿と同じように一階を酒場とする構造は変わらないようで、ルイズたちは情報収集や今後の予定を相談することも兼ねて一階の酒場に集結していた。 大きなテーブルを囲うルイズたちの元に、一時席を離れていたワルドが戻ってくる。 「どうでしたか」 そう尋ねたのはギーシュだった。 「思ったよりも王党派の状況は悪くないようだ。二、三日の内に決着が付くということは無さそうだよ。ニューカッスル地方に陣を敷いて貴族派と睨み合っているらしい」 情報収集に最も長けているであろうワルドが、近辺の住人に聞き込みをして回っていたのだ。 貴族の子女であるルイズたちは平民達に頭を下げたり、彼らから友好的な反応を得られるような話し方をすることは出来ない。軍か諸侯として治世の任に就けばそういう技能も身につくのだろうが、未だ学生の身であるルイズたちにそれを求めるのは酷だろう。一名ほど、処世術に長けた赤い髪の少女という例外はいるが。 「なら、明日はニューカッスルへ向かえばいいわね。ここからならタバサのシルフィードや子爵様のグリフォンで向かえるし、そう急ぐことも無さそうかしら」 アルビオンへ渡るには人数の問題でシルフィードは使えなかったが、ここでなら何人かをグリフォンに乗せることで重量を散らすことが出来る。馬を使うよりもずっと早く目的地に到着することが出来るだろう。 そう思ってのキュルケの発言に、ワルドも同意を示した。 「うむ。だが、のんびりとしてもいられないだろう。昼までには王党派と接触を持ちたいと思う。明日は朝食を取り次第出発するとしよう」 ワルドの言葉に一同は頷いて返すと、席を立った。 内戦中とあって客が少ないのか、空き部屋は多く、飛び込みでも部屋数を多く確保することが出来た。“女神の杵”亭ではワルドとルイズが相部屋となっていたが、今回はそれぞれが一部屋ずつ利用している。 ただ、それが味気ないのか、キュルケはタバサを部屋に招き、それならとギーシュが部屋の中でテーブルゲームでもしないかと誘いをかけた。 「サイトもミス・ヴァリエールも来ないかい?」 「ああ、行くよ。けど、ルイズが……」 足を止めたサイトが、席を立った状態で動かないルイズを見る。 “女神の杵”亭で自分が元の世界に帰るという話をしていたときよりも、沈んだ表情をしていた。 スカボローの港に到着する少し前から、ルイズはあの調子だった。 傭兵達の一件が尾を引いているのだ。 人の死を、いや、人が殺された瞬間を見るのは、才人は初めてだった。ルイズも、恐らくそうなのだろう。 ルイズはそれを、自分達の迂闊な行動が招いた結果だと考えていた。 どういう理由があるにしろ、王族殺しで指名手配されている人物と一緒に居るだなんてことは避けなければならなかった。たとえ、正体を知らなくても、だ。 脅迫されたことは許せないし、相応の罰を与えるべきだとも思っていた。だが、殺すことはなかったのではないか、とも思う。 ワルドはドノヴァンと名乗った傭兵を殺した後、船内に居た傭兵達を皆殺しにした。 一人残らずだ。 船長やスカボローに入港した後の船の検査に当たった検査官に金を握らせ、今回の一件を揉み消した。 それは、それほど珍しいことではない。 支配階級にある貴族を平民が脅した、というだけで重い罪状が加えられるし、ドノヴァンのように杖を奪おうとすれば、それは始祖ブリミルから与えられた魔法の力を踏みにじる行為として断罪される。 裁判を挟むことなく、平民は貴族に無礼を働いたという理由で殺される。それが、ハルケギニアの常識だ。 頭では理解していた現実。だが、ルイズはその当事者となったことで罪の意識から離れられないでいた。 高いモラルを両親の厳しい指導で培ったルイズにとって、それは常識という枠に当て嵌めてしまうことで有耶無耶に出来る問題ではないのだ。 殺さなければ、ドノヴァンはルイズたちを破滅の道に蹴り落としただろう。そんなことはルイズにも分かっている。だが、死という結末を迎えた後では、他に方法があったのではないかと考えてしまうのだ。 「ルイズ。少し、話がある」 ワルドの言葉に、ルイズは俯かせていた顔を上げた。 脱いだ羽帽子をテーブルの隅に置いたワルドが、いつかどこかで見たような懐かしい目をしてこちらを見ている。 「二人きりで話したい」 “女神の杵”亭でも言われた言葉だ。 関係をギクシャクとさせたルイズとワルドを二人きりにして良いものかと、才人は立ち止まってルイズに視線を向けた。 ルイズは才人に力なく首を振ると、大丈夫、と言った。 渋々といった様子で才人がキュルケたちと共に酒場を後にするのを見送って、ルイズはもう一度椅子に腰掛ける。 テーブルの上にはワイン瓶が二つ。それと木杯が六人分。 ワインの瓶は一つが空で、もう一つは栓も開けられていなかった。 空気の漏れる音が響き、未開封のワインのコルクが抜かれる。 ワルドは自分の木杯に半分ほど赤い液体を注ぐと、ルイズにも瓶を傾けた。 「いいわ。わたしはいらない」 「そうか」 栓を閉め、ワルドが木杯に口をつける。 少量のワインが喉を潤したところで、ワルドは息を吐いて天井を見上げた。 「聞きたいことが、あるんじゃないのかい?」 ルイズの肩がびくりと震えた。 少しの沈黙が訪れる。 ワルドはワインを舐めるように飲み、ルイズはテーブルを見つめていた。 息を漏らすような小さな声がワルドの耳に届いたのは、酒場の客の数が半分になった頃だった。 「ワルド。あなたは、人を殺すことに罪の意識を感じたことはある?」 ルイズの脳裏にあるのは、ワルドの魔法で黒焦げになったドノヴァンの姿だ。 悲鳴も上げず、自分が死んだことにも気付かないで、あの傭兵は命を落としたのだろう。 人の死ぬということは、こんなにもあっけないものなのだろうか。もっと苦しくて、悲しくて、辛いことなのではなかったのか。 少なくとも、ルイズは人の死が重いものだと学んできた。 しかし、人の死は想像したものよりも軽く、胸に刺さる痛みは罪の意識よりも感情の揺らぎの小ささにこそ悲鳴を上げている。 ワルドは、そんなルイズに視線を向けることなく少しだけ目を閉じた。 「ある。いや、あった、というべきかな」 魔法衛士隊は国の中枢で動く特殊部隊だ。王宮の警備や外国からの賓客を向かえるのは表の仕事で、実際には血生臭いことが多い。 戦争では真っ先に駆り出され、不穏分子の噂を聞きつければ排除に動き、王族を狙う暗殺者を相手にすることもある。 人の死は、魔法衛士隊にとって当然のことだ。 ワルドもこれまでに幾度となく人を殺めてきた。始めの頃は血の匂いに吐き、寝込む事だってあったし、もう嫌だと毛布に包まって夜を過ごしたこともある。 だが、時間と経験がそんな感情を削いでいった。 今のワルドには、人の命は大きな意味を持たない。金貨と天秤にかけて計算が出来るくらいだ。 「軍に在籍する以上、人の死は切って離す事の出来ないものだ。当たり前のように受け入れる必要があるし、出来なければ軍を抜けるしかない」 そこで、やっとワルドはルイズに視線を合わせた。 「ルイズ。人は人の死に慣れるものだよ。ただ、例外もある」 「例外?」 問い返すルイズに、ワルドは頷いた。 「身近な人の死、或いは、身近だと思う人の死だ。それだけは、何時まで経っても慣れる事が出来ない」 身近な誰かが死んだのだろうか。そう思ったルイズは、ワルドの境遇を思い出した。 ワルドの両親は共に亡くなっている。 父親は戦争で、母親は病で。今のルイズと同じくらいの年齢で軍に入り、若くして魔法衛士隊の隊長に上り詰めた。 ワルドほどの年齢で衛士隊の隊長を務めるというのは、中々出来ることではない。慢性的な人手不足に陥っているトリステインとはいえ、人選にはやはり経験の豊富な人材が好まれるのだから。 両親との死別は、ワルドの心に強い傷を作ったのかもしれない。その痛みを誤魔化すために、がむしゃらに働いてきたのだろう。 だから、今こうして衛士隊の隊長として、アンリエッタ王女の信任を受けているのだ。 ルイズはワルドと同じような境遇に晒されたとして、ワルドのように必死に戦い続けられるだろうかと自問した。 自信は無い。 家族が全て居なくなってしまえば、残るのは“ゼロ”の蔑称を受ける自分しかいない。 魔法が使えない自分では、ヴァリエール家を継ぐことなんて出来はしないだろう。出来たとしても、一体誰が認めてくれるというのだろうか。 いや、それよりも、果たして自分は家族の死を乗り越えられるのだろうか。 父が死んだらと思うと、悲しくなる。母が死んだと思うと、やはり悲しい。二人の姉のどちらが欠けても、自分は悲しみに何日も、何ヶ月も、もしかしたら何年も部屋の中に引き篭もってしまいそうだった。 想像するだけでも、胸が締め付けられるような気持ちになる。鼻の奥が熱くなってきてしまう。耐えようとしても、指先が震えるのだ。 そんなルイズの頭を撫で付けたワルドは、謝罪の言葉を口にして木杯を空にした。 「少し混乱させてしまったね」 囁くようなワルドの言葉に、ルイズは首を横に振った。 ワルドはワイン瓶を手に取り、その中身をルイズと自分の木杯に注いだ。 差し出された木杯をルイズは受け取り、喉を鳴らして中身を飲み干す。 息を吐く頃には、少し落ち着いたようだった。 「……取り乱して、ごめんなさい」 「いいさ。これでも懐は深いつもりだ」 そう言って、ワルドは自分の木杯に口をつけた。 舌に乗る程度の量を飲み、木杯をテーブルに置く。 「それよりも、君の聞きたいことはもっと別にあるんじゃないのかい」 ルイズが、少し赤くなった目でワルドを見た。 そして、また伏せる。 ワルドはゆっくり話せばいいと言うかのように、ウェイトレスを呼んで少しアルコールの強い酒を注文すると、自分の木杯に瓶に残ったワインを注いだ。 再び、沈黙が訪れる。 注文を受けたウェイトレスが、ワインを蒸留して作ったブランデーを運んでくる。値段は張るが、アルコールに酔いたいときにはワルドは好んでこれを飲んでいた。 まだ木杯に残るワインを飲み干して、ワルドはブランデーと一緒に運ばれてきた新しい杯に琥珀色の液体を少量だけ注ぐ。すると、ワインよりも少しだけ強い香りが漂った。 杯の中から立ち上る甘い香りを楽しむワルドに、ルイズは顔を上げた。 「わたし、平民を身近な人間だと認識していなかったのかしら」 「何故、そう思うんだい」 木杯を少しだけ傾けて、唇を濡らす。 「……サイトを呼び出したとき、わたし、どこの誰かも分からない平民を呼び出したことに苛立ってばかりで、サイトこと、何も考えてなかった。サイトにも家族が居る。突然消えてしまったサイトを、才人の家族はきっと探してるわ。昼間の傭兵にも家族が居るはずよね?お父さんと、お母さんが居て、わたしたちは生まれてくるんだもの。きっと、突然消えてしまった子供を捜して泣いているわ」 顔を覆うように両手を当てて声を震わせるルイズを、ワルドは杯を傾けながら見つめた。 「サイト君を呼び出すべきではなかった。昼間の傭兵を殺すべきではなかった。そう言いたいのかい?」 ルイズは首を振った。 「違うわ。責任を持たなければならないということに気が付いたのよ。サイトのこともそうだけど、昼間の傭兵だけじゃない、わたしたちの身近に居る全てのことに、わたしたちは責任を負わなければならない。そのことに、わたしはなにも気付いてなかった」 家に帰りたい。そう才人は最初から言っていた。なのに、自分は才人を拘束し、自分の都合のいいように“躾”と称して鞭を振るったのだ。 衣食住の面倒を見るのは、才人から帰る家を奪った自分の責任だ。才人を使い魔として働かせるなら、彼の同意と相応の待遇を提供するのが当たり前の行為のはず。それすらも怠って、最低限責任を負わなければならないはずの部分を盾に才人を利用している。 他の平民に対してだって同じだ。 貴族という立場を利用して力ない平民達を好き勝手に扱っている。魔法学院で起きた才人とギーシュの決闘騒ぎも、そんな傲慢な考えから起きた騒動だった。 騒ぎの発端となったメイドの少女に非は無い。彼女は、自分に出来ることをしたし、それは誰かから責められるような行為ではなかった。それを責めたのは、傲慢な思想そのものだったはず。 そこまで考えたルイズに、ワルドは小さく笑った。 何故笑われるのか、それを理解できずにルイズは目を丸くする。 「君は、貴族と平民の差について悩み始めているようだね。だが、考え違いを起こしてはいけないよ。確かに、平民と貴族には明確に立場の差がある。だが、それはこのハルケギニアの長い歴史の間で積み上げられてきた、れっきとした制度だ」 「でも……」 言いよどむルイズに、ワルドは杯を置いて姿勢を正した。 「全てのことには責任が付きまとう。その考えを否定する気は無いよ。でも、君の考える対当な関係というのは、目先の対当さでしかない。僕達貴族は、普段から一定の責務を抱えることで君臨を許されているのは分かっているね。そして、それは、一種の権力として反映されてしかるべきものだ」 ルイズは少しだけ考えて、頷いた。 父が毎日のように領民のことを考え、より多くの人々が幸せに暮らせるように働いている姿を見てきている。もし、領内で問題が起きたとき、その責任を問われるのは領地を任されている父自身だ。ルイズも、教育を受ける過程で幾度となく権利と義務については教え込まれてきた。 贅沢なら暮らしが許されるのは、家柄良いからではない。家柄を良く保つために努力を怠らず、国のため、民の為に身を粉にして働いてきたからだ。 「平民達は貴族から享受される平和と安定した生活の代償として、税を納め、貴族達に頭を垂らす。横暴な振る舞いすら許せとは言わないが、多少の我慢を強いるくらいは、貴族の権利と言えるのではないのかい」 国は魔法によって成り立っている。それは、平民が金で貴族にゲルマニアでも変わりはしない。生活の基礎は勿論、ハルケギニアに存在する数多の獰猛な生物から人々を守るにはメイジの力が必要となる。 「ルイズ。君が言いたいのは、貴族と平民が同じ物差しを持つべきだ、ということなんだと思う。でも、測るべきものは貴族が血と汗を流して手に入れたものだ。同じ物差しを使えというのは、貴族に平民よりも抑圧された環境で生きていけというようなものだよ。それでは、貴族が痛い思いをするばかりだ。これは、対当とは言えないと思わないかな」 ワルドは杯の底に揺らぐ琥珀色の液体を喉に流し込んだ。 「権利や義務というのは、往々にして目に見えない形だからね。金貨のように数や重さで測ることは出来ない。そのせいで大きさを間違え易いのさ。君の悩みである平民と貴族の差についても、曖昧な部分が多い。だから、悩んで悩んで、悩み抜けばいいさ。君なりの答えがどこかにあるはずだからね」 「ワルドさま……」 表情を少しだけ明るくしたルイズが、胸の前で両手を組んでぼうっとワルドを見つめた。 いつか見た懐かしい眼差しに、ワルドは顔を背ける。 空の木杯に、ブランデーが再び注がれた。 「君がこれからどうするかまで口を出す気は無いよ。でも、昼間のことは、もう忘れるべきだ。旅の間に起きた一切の責任は、僕と、任を与えた王女殿下が負う。今回の件は身を守るための不可抗力でもあるんだ。時折、今のように悩めば、それでいい」 「……はい」 気が抜けたように椅子の背凭れに寄りかかったルイズを見て、ワルドは笑みを浮かべた。 悩みが解決したわけではないが、胸の痞えは取れたのだろう。スカボローに着いてから見ることの出来なかった、普段のルイズの姿がそこにはあった。 ワルドはブランデーの瓶をルイズの木杯に傾けて、少しだけ器を満たす。 二人は琥珀色の液体を同時に飲み干した。 喉の奥が熱くなる感覚に、ルイズが溜息を漏らす。仄かに頬が紅潮し、幼い少女に色香のようなものが漂っていた。 「君は賢い。多くの貴族が、享受するに相応しくないほど大きな物差しを持っていることを知っている。君も、自分が大き過ぎる物差しを持っていることに気付いた。なかなか出来ることじゃない」 「買い被りです……。この年になって、やっと貴族としてのスタートラインに立った気がするんです。父や母を思うと、まだまだ小娘だと感じますわ」 緊張の糸が途切れてすぐにアルコールを飲んだため、早速酔ったらしい。ルイズの顔が徐々に赤くなり、時々宙を見つめて動かなくなる。 「君のご両親はハルケギニアでも有数の貴族だ。同じ場所に立つには、相応の年月が必要となる。急ぐことは無いさ。でも、その姿勢は賞賛に値する」 ルイズと自分の杯に瓶に残った最後のブランデーを等分に注ぐと、ワルドはウェイトレスを呼んで追加を頼んだ。 静かに、木杯を傾ける時間が過ぎる。 杯の中の中身が無くなる頃、ワルドは唐突に切り出した。 「こんなことを言っても信じてはもらえないだろうが、“女神の杵”亭で語った僕の気持ちは本心だ」 ルイズも杯の中身が無くなって手持ち無沙汰になったのか、ワルドの言葉に顔を上げて艶やかに微笑んだ。 「魅力が無いってこと?」 「茶化さないでくれ。アレがそういう意味じゃないことくらい、君にだって分かっているだろう」 苦々しい記憶にワルドが顔を顰める傍らで、ルイズが笑い声を漏らした。 「プロポーズのことだよ。僕の気持ちはまだ変わっていない。誤解はあったし、大人気ないことをしたとも思う。だが、それで諦められるほど簡単な気持ちじゃあないんだ」 テーブルの上に乗り出してルイズに近寄ったワルドの言葉に、ルイズは視線を下に向けて首を振った。 「あなたの気持ちは嬉しいけど、わたしにとってはやっぱり憧れみたいなものなの。好きか嫌いかって聞かれたら、好きって言えるけど、それ以上でもそれ以下でもないわ。だから、ごめんなさい」 立ち上がったルイズは一度だけワルドに向かって頭を下げると、アルコールでおぼつかない足取りのまま奥の階段を上っていった。 ワルドはその姿を見守ると、木杯を呷ってその中身が無いことに気が付いた。それを見計らったかのようにウェイトレスがトレイ片手に姿を現す。 「追加、おまちどうさま」 追加のブランデーをテーブルに置いて、素朴な様相のウェイトレスは去って行ったルイズとワルドを交互に見て小さく笑った。 「振られたみたいですね」 「そのようだ」 自嘲気味に笑ったワルドは、手に取ろうとしたブランデーの瓶を横から攫われて眉を潜めた。 視線の先でウェイトレスがニコニコと笑っている。 「私、今日はこれでお仕事終わりなんです。よろしければ、ご一緒させてくださいな」 魔法衛士隊の隊長となってからは、似たような誘い文句を幾度となくかけられてきた。 普段なら断る場面だったが、今日だけはこのウェイトレスの少女の裏表の無い笑顔が心地よく感じられて、ワルドは思わず首を縦に振った。 ルイズの座っていた席に腰を下ろしたウェイトレスは、ブランデーの瓶をワルドの杯に傾ける。そして、自分もルイズが使っていた木杯に琥珀色の液体を注ぐと、互いの杯をぶつけて、乾杯、と謳った。 あっという間に、杯の中身を飲み干すウェイトレスを見て、ワルドも対抗するように杯を空ける。 「ぷはっ、んーおいしー!」 貴族のような気取った飲み方をしない、本当に酒を美味そうに飲む少女だった。 見ているだけで腹がいっぱいになりそうだが、悪い気分ではない。 今夜は、深酒を避けられそうに無いな。 そんなことを思って、ワルドは笑みを深めた。 夜は更けていく。 アルビオンの辺境の森に隠れるように存在するウェストウッド村も、深い闇に包まれて静けさに包まれつつあった。 数えるほどしかない建物の中、その内の一つだけが明かりと共に幾人かの話し声を漏らしている。 大人と子供の入り混じった声だった。 「やっぱりねえ。騎士なんてガラじゃないと思ったんだ。クビになって正解さ」 そう言って、フーケが木杯に注がれたワインに口をつけた。 家の大きさとは不釣合いな大きなテーブルと十を越える椅子の数。部屋数は少なく、玄関口と繋がるリビングルームを中心に二部屋といったところだろう。住んでいる人間の数よりも明らかに多い家具の備えは、村自体が一種の孤児院で、この家を子供達の集まる場所としているからだ。 フーケの向かいに座っているのはエルザだった。 同じようにワインに満ちた木杯を手に、剣呑な表情でちびちびと飲んでいる。 視線の先には倒れ付したホル・ホースの姿があった。 「あれこれと世話を焼いてくれる使用人も多かったから、居心地は良かったけどね。その分制約も多かったし、性に合わなかったのよ。それに何より、変に活躍すると、このろくでなしがすぐ他の女に走るんだから!このっ!このっ!」 小さな足で倒れたホル・ホースの頭を何度も踏みつける。それと同時に、フーケも足を伸ばして頭頂部を蹴り飛ばしていた。 「ま、マチルダ姉さんもエルザちゃんも、そこまでしなくても……」 同じテーブルを囲んで果実を絞ったジュースを飲んでいたティファニアが、恐る恐る止めに入る。 すぐに鋭く殺気の籠もった視線が返って来た。 「いいや!こいつはどうせ反省しないんだ!こういうときに痛い目に合わせないと、また同じことを繰り返すよ!」 「そうよ!ちょっと大きいからって、いきなり女の子の胸を鷲掴みにするなんて!頭がおかしいとしか思えないわ!そういうことする人じゃないと思ってたのに!!」 そう言って、さらに蹴る力を強めていく。 ホル・ホースが床に倒れ、非道な扱いを受けているのには訳があった。 ティファニアの胸、である。 大きいのだ。それも、普通の大きさではない。細い体に何故こんなものが乗っているのかと思うくらい大きい。エルザの頭くらいはある。いや、下手をすれば、もっとある。 長い女断ちの期間で溜まっているものを我慢を続けているホル・ホースは、その大きな夢と希望の果実を見るや否や、自然な動作で鷲掴みにしたのだ。 捏ね繰り回すように揉みしだいた時間、実に五秒。 何をされているのか分からず呆然としていたティファニアが悲鳴を上げたのと、突然の事態に動きが止まっていたエルザとフーケが動き出したのは、ほぼ同時だった。 両頬を挟むように繰り出された拳を頬にめり込ませ、しかし、それでも満足そうな笑みを浮かべたままホル・ホースは気絶したのである。 「馬鹿よ!大馬鹿よ!こんな脂肪の塊に誘われちゃってさ!こんな……こんなの……ただの脂肪じゃない!目の前でこれ見よがしに揺らしてんじゃないわよ!!」 「そんなつもりは……あうぅ」 ホル・ホースとほぼ同じように両手でティファニアの胸を鷲掴みにしたエルザが、不満そうな顔で巨大な母性の象徴とも言われるものを乱暴に捏ねた。捏ね繰り回した。 「大きければいいとでも思ってんの!?こんな、張りがあって、形も良くて、色白で、吸い付くような肌で、感度も良くて、反応も初々しくて……舐めんじゃないわよ!!」 先端の部分をギュッと摘んで力を入れる。ティファニアの頬が赤くなり、声にならない悲鳴を漏らした。 「こんなのでお兄ちゃんを誘惑するなんて……馬鹿にしてるわけ!?わたしのこの体を見て嘲笑ってるんでしょ!?悪かったわね!ほぼ円柱で!ごめんなさいね!膨らみもなにもなくて!これ、ちょっとわたしにもわけなさブヘッ!?」 エルザの後頭部にフーケの鋭い拳が飛んだ。 「あんた、これで二回目じゃないかい!反省しないのはあんたも一緒か!?」 「……だって、三十年生きてるわたしがこの姿で、二十年も生きてないエルフのハーフがこれって、おかしくない?成長し過ぎよ」 倒れ付すホル・ホースの上に転がったエルザが、殴られた頭を抑えて頬を膨らませた。 ティファニアは母をエルフ、父を人間とした混血児だ。血が混じったことで寿命に変化が生まれたのか分からないが、成長は人間と同じようで、エルザのように寿命に見合った成長速度をしているわけではないらしい。 そのことに、エルザは不満たらたらだった。 「不公平よ。わたし、単純計算で人間の六分の一くらいの成長ペースよ?成長期に入ったからこれからどうなるか分からないけど、このままだとコレになるまで100年近くかかることになるじゃない」 再びティファニアの胸に手を置いて、おかしいわよ、と言うエルザに、フーケは知ったことかと木杯に残るワインを喉に流し込んだ。ついでにホル・ホースの頭を蹴り飛ばすのも忘れない。 空になった木杯をテーブルに置いて、視線を部屋の隅に向ける。そこには、一心不乱にナイフを磨いている地下水の姿があった。むさ苦しい様相にフーケの眉が寄る。 「せっかくの一時帰郷なのに、なんであんた達みたいな疫病神と係わり合いになっちまうかねえ。なにやってたか知らないけど、汚いし、臭いし、変なの増えてるし」 「悪かったわね。ホントはラ・ロシェールでちょっと休むつもりだったのよ。服の代えも買う予定だったけど、賞金稼ぎに追い回されてそんなことも出来なかったし。ああ、ヴェルサルテイル宮殿のお風呂が懐かしいわ」 両手を顔の横で組んで、エルザは記憶にある豪華絢爛な王族用の浴場を思い出した。 百人近く同時に入れそうな巨大な浴槽に香木や香草を浮かべ、専用に調合された石鹸を上等の絹に染みこませて使用人たちに洗ってもらうのだ。どう考えても騎士の身分が得られる待遇ではないが、大抵イザベラと一緒に入っていたので、ついでに洗ってもらっていたのである。なお、イザベラの許可は貰っていない。強引に入り込んでいたのだ。 そんな生活から離れたのは最近の事とはいえ、エルザの肌からはもう甘い香りは立ち込めないし、髪も手入れを怠っているので艶を無くしかけている。以前からの一張羅である白いドレスは所々解れ、汚れが染み付いていた。 そろそろ、しっかりと体を洗いたい気分だ。 そんなエルザを見て、ティファニアは手を叩いた。 「それなら、わたしたちのお風呂に入りませんか?貴族様が入るようなものほど立派じゃないけど、お湯に浸かるのはとっても気持ちいいですよ」 「ちょっと、ティファニア!?」 「いいじゃない、マチルダ姉さん。せっかく作ったんだから、使わなきゃ損よ」 止めるフーケに、ティファニアは笑顔で返して裏口から出て行ってしまう。 後姿を見送ったエルザはフーケに視線を送り、首を傾げた。 「ここ、お風呂があるの?サウナじゃなくて?」 ハルケギニアで平民用の風呂といえば、狭い部屋に熱した石を用意し、水をかけて高温の蒸気を作り出すことで汗を浮かばせ、最後にタオルで体を拭くサウナ形式のものが一般的だ。それ以外に身を清める方法と言えば、濡れたタオルで体を拭くか、水浴びくらいのものである。 しかし、ティファニアは湯船の存在があるようなことを言っている。つまり、貴族が使うようなお湯を用いた浴槽を用いた風呂があるということだ。 フーケは少し赤く染まった顔で頬をかくと、テーブルのワインの瓶を木杯に傾けた。 「ああ、そうだよ。造ったのはつい先日さ。学院で暫く働くとなると、定期的に休みも取れるしね。長期休暇でここに戻ってきたときに、あったらいいな、と思って造ったのさ」 トリステイン魔法学院にも風呂はある。使用人たちにはサウナが用意されているが、学院に通う貴族の子弟用に大浴場が地下に整備されているのだ。使う人数が多いため、その規模は王族のものと遜色ない。 フーケも利用した経験があるのだろう。何度か使っている内に癖になって、故郷ともいえるこの場所に作っておきたくなったのかもしれない。幸いにして、土木建築に秀でた土系統のメイジであることも手伝って、実行に移してしまったのだ。 「石鹸は?体を洗うものが無いと、せっかくのお風呂も魅力半減よ?」 「心配要らないよ。学院のをちょろまかしてきた。向こうも数を使うからね、幾つか無くなっても気が付きゃしないさ」 フーケの言葉にエルザが笑みを深めた。 一度知ってしまった贅沢は中々止められない。ガリアを出てからというもの、水浴びやサウナで体を洗うのがちょっと苦痛に思っていたところだ。 久し振りのお湯を使った風呂にエルザの胸が躍る。 気を良くして部屋の中をチョロチョロと歩き回っているうちに、ティファニアが戻ってきて困ったような表情を浮かべた。 「ごめんなさい。夕方に子供達を入れたからお湯が汚れちゃってて、沸かし直すと時間がかかりそうなんだけど、いいかしら?」 湯の張替え、なんて贅沢なことをするのは珍しいことだ。水は貴重だし、近くに水源があったとしても風呂釜を満たすほどの水量を運ぶのは大変のはずだ。 エルザたちを客人として迎えている証明なのだろうが、そこまで気を使ってもらうつもりはエルザにはなかった。 「水はまだ抜いてないわよね?なら、そのまま入っちゃうわ。手間をかけさせるつもりは無いし、体を洗えるだけでも御の字よ」 「でも、お誘いしたのはわたしなのに……」 しゅんと縮こまるティファニアを見て、エルザは小さく溜息を漏らした。 今時珍しいくらい純真で素直な良い子だ。自分のような存在が傍にいて良いのかと思うくらいに。 だが、これでは将来苦労することになるだろう。この小さな村の中に閉じこもっている間は良いだろうが、外に出ると純真さが破滅を誘うことになる。 すっと視線をフーケに向けると、似たような思いを抱いたことがあるのか、すぐにエルザの視線の意味に気付いて肩を竦めた。 矯正しようとしたのかは分からないが、ティファニアの性格はそう簡単に変わるものでもないらしい。根っこの部分から良い子ちゃんなのだろう。 そんなティファニアを守るためにフーケが居るのだと思えば、なんとなく納得もできた。 「なら、アタシも一緒に入るよ。多少の汚れは魔法で何とかなるからね。ティファニアも今日は入ってないだろう?なら、一緒に入っちまいな」 「でも、そうすると火の番が……」 電子制御されたハルケギニアにはボイラーなんてものは無い。当然、釜に入れられる湯は人力で沸かすのだ。 ティファニアは自分がその役目に就こうとしていたらしい。 そんな懸念に、フーケは部屋の隅にいる人物に目を向けることで解消させた。 「地下水、だったっけ。インテリジェンス・ナイフのアンタなら、変な気は起こさないだろう?火の番を任されてくれないかい」 「……ん、了解したぜ」 ちょうど本体の刀身を磨くのも終わったらしい。ゆっくりと立ち上がると、鏡のように光りを反射する本体の姿に見入って、ほう、と溜息をついていた。 この様子なら女の体になんて興味はないだろう。 立ち上がって自室と思われる部屋から下着の代えを用意したフーケが、ティファニアにも同じように着替えを用意させた。エルザには孤児院の子供のために用意してある予備の服を引っ張り出してきた。 安物の生地だがなんとなく悪くない気がして、エルザは差し出された着替えを素直に受け取る。 「そういえば、ここのお風呂って三人も入れるの?」 エルザの疑問をフーケは鼻で笑った。 「ここをどこだと思ってんだい。孤児院だよ。ガキの面倒を見るのに一人ずつ相手にしてたら日が暮れちまう。大人が五人は入れるように造ったから安心しな」 「ふーん」 気の無い返事を返したエルザだったが、表情を見れば浮かれているのが良く分かる。 話だけをすると相応の年齢を感じさせるが、表情や行動を見ていると子供が背伸びをしているようにしか見えない。 そんなことに気が付いて、フーケは自然と笑みを浮かべた。 それぞれに着替えを手にして、フーケたちが家から出て行く。 風呂場は裏手にあるらしく、着替えはそこで出来るようだった。 ティファニアの胸を直接見てやると意気込むエルザに、困った様子を見せるティファニア、暴走しかけるエルザを止めるフーケとその後ろで黙々と歩く地下水。 どことなく、仲の良い家族を思わせる光景だった。 だが、彼女達は忘れていた。 今ここで、ケダモノが一匹聞き耳を立てていたことを。
https://w.atwiki.jp/web-comic/pages/27.html
アッテンボローの怪人 掲載サイト Weird Comic Art ジャンル SF ページ数 332ページ 描画法 モノクロ 登場キャラのロボット率 ★★★★☆ 状態 完結 主人公 ??? 【概要】 人類絶滅後の宇宙空間で生活する、7体の奇妙なロボット達。 彼らの元に謎の少女が出現したことから、物語は動き出す…。 紹介・応援コメント テンポの良い掛け合いが楽しい。掛け合いだけでなく、奥行きのある世界観も魅力。 個性的なキャラクター。そして一際目につく大将の魅力…。 気付いたら最後まで読んでた ラストの二人、かっけえええええ! 緑だけがわからない 超展開だと思う。ただ大将はかっけぇ。ロボたちのキャラも好き。 展開も面白いし、キャラも個性的で良い。ラストは感動したな。 こういうSFらしいSFが読みたかった。続編等に期待。 実に読んでいて心地のよいマンガ。地味だけれど雰囲気に浸れる。次回作にも期待したい。 終わってしまってとても残念。もっと読みたかった。 殺された"作者"が気の毒 上の作者が殺されたって方が気になるわ ↑ゴブリンですな…w 地味なんだけど、とても雰囲気のいい漫画だった u2での話もっと読みたかった。 久々に読み直したら、キャラ紹介以外にも色々とクリックできて補足説明が読めるポイントがあった。背景の設定とかも分かって面白い。そして相変わらず大将が良いキャラだ。 出来ればみんな気にしてほしいオイペンドウ・・・ おまけ漫画がわからない 無駄がないです。実に面白い キャラ造形と世界観が独特。ライスボーイが好きな人にもおすすめ キャラの掛け合いがたのしくてサクサク読めた。最後のふたりのページが好きだ。 トップページの機械人間(?)にキュンときたら最後まで読むのオススメ レビューを書く この作品が好きな人におすすめのweb漫画 土星人!プミちゃん ビチバラガ ハイブリッドレイン アッテンボローの怪人 宇宙人。~そして壊れた心と世界~ 10円魔王 このページの登録タグ 500ページ未満 SF 完結 このページのトラックバック trackback トップに戻る
https://w.atwiki.jp/iruna_ss/pages/94.html
トップ→装備→剣→剣/強化あり(ドロップ)→デスサイス 新エイジングケア【D(ディー)】 デスサイス ATK:170~185 スロット:1確認 ATK+10% MDEF+15% 闇属性に半減 ※トレード×、ATK=ファルクスの数値+45? ★ファルクスの強化(ログラスの街の鍛冶屋) ┏ファルクス×1 ┃素敵なヒゲ×4 ┃恐怖の魔眼×20 ┃短い槍の破片×40 ┗666スピナ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1645.html
ワルドが、目当ての階段を見つけたらしく、駆け上り始めた。 木でできた階段はどうも安定が悪い。眼下にラ・ロシェールの明かりが見えるが、 生憎とセッコは夜景を楽しむような繊細な神経は持ってないし、そんな時間も今はないのであった。 ふと、不自然な足音に気づく。 「なあー」 それに気づいているのかいないのか、ワルドが久々に口を開いた。 「なんだね?」 「なんか追われてるぜえ。」 「ふむ」 ちょっと見てくるかなあ。 「あ、おい!」 制止するワルドをとりあえず無視して、デルフリンガーを抜き階段を少し下りると、足音が消えた。 ・・・あれえ?確かに、間違いなく音がしたんだがなあ。 「きゃあ!」 上でルイズの悲鳴が聞こえる。 もしかして途中から飛びやがったかあ? あわてて戻ると、ルイズを掴んだ仮面の男とワルドが向かいあっていた。 ルイズごと切り殺すわけには・・・いかねえよなあ、いくらなんでも。 殴るか。幸いにして男はオレに背中を向けている。 「・・・ソル・ラ・ウィンデ」 その時、ちょうど完成していたワルドの呪文が、仮面の男とルイズとセッコをまとめて吹き飛ばした。 「きゃあ!」 「なあああああ!」 「・・・」 うおああ、切るのをためらったオレがバカみてえじゃねえか! セッコは階段に手を突っ込みあわてて這い上がった。 男は手すりを掴んで持ちこたえた。 はるか下へと落ちていくルイズをワルドが急降下してキャッチした。 足場の不安定な階段の上で仮面の男とセッコは睨み合う。 男が低く、低く呪文を唱え始めた。ひんやりとした空気が流れだす。 「相棒!構えろ!」 デルフリンガーが叫ぶ。 「ああ?」 空気が震え、何かが光る。 何だあ、電気か?! えと、ええと、雷は、どんなのによく落ちるんだっけ、細長い、金属? け、剣持ってたら絶対やべえ! セッコは、デルフリンガーから慌てて手を離した。 「これはライトニングクラUGYAAAAAAAAAAAAAA!」 稲妻がデルフリンガーを直撃し、閃光で辺りが突然昼間のように明るくなった。 「あ、危ねえ!目が、目がああ!」 畜生、目がちかちかする、奴はどこへ行きやがった?よく見えねえ・・・ 「デル・イル・・・」 さっきと同じ声で低い詠唱が聞こえてくる。いつの間に上に? 距離約3メートル。いや、メイル、だっけなあ。 この程度よお、武器無しでもひとっとびだぜ! 「くらえっ!」 「きゃあああ!」 あ、あれえ、ルイズの悲鳴? 「・・・ラ・ウィンでえええええええ!な、何をするガンダールヴ!」 なん・・・でだッ!!なんでワルドと間違えちまったんだ?! 「すまねえルイズ、目がくらんで間違えた。」 「何やってんのよ馬鹿!」 「落ち着きたまえ、賊なら逃げたぞ」 「うう。」 うぐぐ・・・オレが声を聞き違えるなんて畜生。 そうだ、デルフリンガーを拾わねえと。 セッコはようやく視力が戻ってきた目をこすりながら階段を下りた。 おお、あったあった。 「ちょっと痛かったぜ相棒・・・」 デルフリンガーが不満そうに呟いた。 「我慢しろよお。それに、今ので錆が取れたんじゃねえか?」 「そんな気もしなくもねえが、俺様を放り出すのはなるべくやめてくれ」 「そうか。」 話しているとワルドが興味深げに近づいてきた。 「さっきの呪文は[ライトニング・クラウド]。風系統の強力な呪文だな」 「ふうん。」 「しかし変だな、人は当然としても少々の固定化がかかった武器程度、軽く黒焦げにするぐらいの威力があるはずなんだが」 怖ええ、直撃しなくて本当によかったぜ。 「この剣、無傷に見えるな。一体何でできてるんだ?」 「知らん、忘れた」 デルフリンガーが答える。 「ふむ、インテリジェンスソードねえ。とりあえず賊は去ったし、次が来ないうちに登ろうか」 階段を上りきった先に、一本の枝が橋のように伸びていた。それに一艘の船が貼り付いている。羽みたいなものがついている以外は帆船だ。 ワルドたちが船上に現れると、甲板で寝込んでいた船員が起き上がった。 「な、なんでぇ?おめぇら!」 「船長はいるか?」 ワルドが杖を抜いて脅すように言うと、船員はすっ飛んでいった。 しばらくして、帽子を被った船長らしき初老の男が戻ってくる。 「なんの御用ですかな?」 「女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。アルビオンに今すぐ出航してもらいたい」 船長の目が丸くなる。 「無茶いわねえでください、今出たら風石が足りなくなって落っこちますぜ!」 「足りぬ分は、僕が補う。僕は[風]のスクウェアだ」 「まあ、料金さえはずんでくれるならかまいませんが・・・」 「僕ら以外の積荷はなんだね?」 「硫黄で。戦時中のアルビオンでは火薬や火の秘薬の材料として、黄金並みの値段がつきやすんでね。 特に革命中の貴族の方々は気前がいいでさあ」 「ふむ、ではその運賃と同額出そうじゃないか。」 商談成立。船長はにやりと笑って命令を下した。 「出航だ!急げ!」 帆が風を受け、船が動き出す。 「アルビオンには何時着く?」 ワルドが船長に尋ねる。 「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着しまさあ」 「本当にこんなのが飛ぶんだなあ。燃料はなんなんだ?」 「風石だぜ、相棒」 「なんだそりゃ?」 「説明するのめんどくせ」 「使えねーなあ。」 デルフリンガーと会話しつつ甲板をうろうろしていたセッコに、ルイズが話しかけてきた。 「ねえセッコ、抜き身の剣を持ったままうろつくのはやめない?」 「なんかまずいかあ?」 「周りを見てみなさいよ」 「うあ?」 言われて見回すと、船員たちが露骨に警戒してこっちを見てやがる。 渋々デルフリンガーを鞘に収めた。 そんな二人の下へ、ワルドが寄ってきた。 「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は包囲されているようだ」 ルイズが不安そうに呟いた。 「ウェールズ皇太子は?」 「わからん、生きてはいるようだが・・・」 思ったより更に状況が悪いみてえだ。 「それって、連絡不能なんじゃねえか?」 「陣中突破しかあるまいな、スカボローからニューカッスルまで馬で一日だ」 また馬かよお。 「グリフォンだっけ、あれはどうなんだ。」 ルイズが横から口を挟む。 「馬鹿ね、撃ち落とされちゃうわよ」 あー、そうだった・・・ 「ヴェルダンデが居れば楽勝なのによお。」 「いないものはどうしようもあるまい、着くのは昼だ。少し休もう」 船員たちの大声とまぶしい光で、セッコは目を覚ました。抜けるような青空が広がっている。 「アルビオンが見えたぞー!」 起き上がると、異常な光景が目に飛び込んできた。 「な、なななな、なあああ?!」 目の前に、空中に巨大な何かが浮いている。・・・島、いや大陸かあ? 「驚いた?セッコ、これが白の国アルビオンよ」 近くにいたルイズが声をかけてきた。 驚いたなんてもんじゃねえだろう。なんつう非常識な。 「これが月に何度かこの近くに来るのよ。雨を伴ってね」 浮いてるだけでもどうかと思うのに、動くのかよ。 「うああ・・・」 ぽかんと口を開けていると、見張りの船員が突然声を上げた。 「右舷上方の雲の中より船が接近してきます!」 セッコはそっちを見て呟いた。 「なんだ、普通の武器もあんじゃねえか」 舷側から、十数門の大砲が突き出していた。 横を見ると、ルイズが凄い表情で固まっている。なんでだ? 「旗が掲げられていません!空賊、空賊だああ!」 船員が叫んでいる。空賊、ねえ。 眺めている間にも横付けされた大きな船からぞろぞろと賊が降りてくる。 「ははは、なんと硫黄が積んであるらしいぞ!船ごと全部いただきだぜ!」 むさくるしい男たちが歓声を上げている。 「なあ、これって任務終了じゃねえか?どうにかなんの?」 セッコはルイズの隣にいたワルドに声をかけてみた。 「まあ、いきなり殺されることはあるまい。様子を見るしかないな」 この船に潜って隠れとこうかなあ? いや、ダメだ。 ルイズを放置することになるし、船ごと大砲で撃ち落とされたらどうしようもねえ・・・うう、まだ死にたくねえ・・・。 セッコが生き延びる方法を考えていると、賊のリーダーらしきいかつい男が近づいてきた。 そしてワルドとルイズの方を向き、上から下まで穴が開くほど眺める。 「おや、貴族の客も乗せてるのか。こりゃあ身代金がたんまりもらえるだろうぜ。てめえら!こいつらを運びな!」 ワルドは渋い表情を浮かべ、ルイズは男たちをにらみつけた。 セッコは満面の笑みをこぼしそうになるのを必死にこらえた。外からだと、泣いているように見えたかもしれない。 とりあえず、この場をしのげることは確定したみてえだなあ。 背中のデルフリンガーがセッコの心中を代弁するかのごとくカタカタと揺れた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/tanosiiorika/pages/3264.html
始動要塞アロサイア 火 コスト4 クリーチャー ビッグ・マッスル 1000 ■スタートアップ(ゲーム開始前に、このカードを使用デッキから抜き出し相手に公開してもよい。そうした場合ゲーム開始前の処理をこのカードを除いたカードで行い、自分の手札枚数は4枚にする。その後このカードを開始時の手札に加える。スタートアップはゲーム開始前に1度しか使えない。) ■スピード・アタッカー (F)戦争は、始まる前に終わる。故に始まる前に展開を行う。 作者:あるふぁ スタートアップのテスト。自分で作っておいてなんだけど、相当コスト論難しい。 名前 コメント -
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1953.html
昨夜から続く雨は、翌朝になってもやむ気配を見せなかった。 「まだ、降ってんのか」 ベッドから身を起こしたクロコダイルは、窓の外を見て心底嫌そうな 表情を形作った。 悪魔の実の能力者は、海を始め水全般を苦手とする。体の一部でも水 に浸ればその力を著しく制限され、全身が水中に没すれば浮く事も泳ぐ 事もできずに溺れてしまう。 中でも『スナスナの実』によって砂を操るクロコダイルの場合は、雨 やシャワーといった流れる水、血液のような液体ですらも能力を封じる 大敵だ。水分を含んだ砂が凝固し、強制的に元の肉体へと戻ってしまう のである。悪魔の実の能力を使わないでの戦闘経験もあるにはあるが、 デルフリンガーの存在を上乗せしてなお、正面きっての戦いは避けたい のが本音だった。 「遅いお目覚めだね、旦那。天気は悪いが、気分はどうだい?」 「……最高に最悪だ」 デルフリンガーの茶々を聞いて、クロコダイルは余計に顔を顰めた。 Mr.0の使い魔 —エピソード・オブ・ハルケギニア— 第二十三話 デルフリンガーを携えて一階の酒場に向かうと、少年少女は既に食事 を終えかけていた。特にタバサの近くには空の皿が十数枚、高々と積み 重なっている。一皿にどんな料理がどれだけ盛られていたかは知らない が、一人で食べたのだとしたら驚きだ。おまけに、タバサは今も黙々と サラダを口に運んでいる。他の面々は、いくらか料理の残った皿を前に 満腹になってしまったようだ。 と、一人足りない事に気づいて、クロコダイルは首を傾げた。 「子爵はどうした?」 「桟橋の様子を見て来るって。この雨で出港が延期になるかもしれないから」 答えたのはルイズである。 「たかがこの程度の雨で?」 「たかがじゃないわよ。フネにとって、天気は死活問題なんだから」 「空を嘗めている」と憤慨したルイズは、クロコダイルにフネの特徴 と空の怖さを滔々と説いた。 空を飛ぶフネというのは、海に浮かぶ船以上に気象条件に左右される 代物だ。空中に浮かべるだけの浮力は『風石』という特殊な鉱石で確保 しているが、推進機関は積んでおらず、海の船と同じくマストに張った 帆に風を受けて前進する。方向転換は普通の舵ではなく、左右の舷側に 突き出た羽を用いて行うのだ。 それらの特徴を持つフネにとって、悪天候は直接死の危険につながる。 雲に視界を塞がれて航路を見失う、強風に煽られて船体が傾く、雨粒の 連打による下向きの加圧で風石を消費する、マストに落雷して炎上轟沈 する……等々、事故の要因には事欠かない。特に、風石はフネに浮力を 与える最重要物資である。海では何もなくとも海水によって浮力を得る 事ができるが、空では風石の消失と浮力の消滅、すなわち墜落が同義語 なのだ。余計な時間を飛んで風石がなくなれば、行き先が“冥府”に変更 されかねない。 故に天気の悪い時は出港を中止し、船体を桟橋や大地に固定して天候 回復を待つのである。余程の急便や軍事行動の最中でもない限り、これ は絶対の原則だった。 こうも詳しく解説されると、クロコダイルも頷かざるを得ない。 「つまり、雨が上がるまではここで足止めか」 「こればかりはどうしようもないわ。あんまりのんびりする訳にもいかないけど」 「あら、そんなに急ぐような用事なの?」 「べ、別に何でもないわ。そもそもあんたには関係ない事よ」 「いいじゃない、少しぐらい教えてくれても」 口を挟んだキュルケとルイズの口論をよそに、クロコダイルは空席に 腰を落ち着けた。ワルドの単独行動は気になるが、明確な敵意を示した 訳ではない。警戒は必要としても、今はまだ自分一人で十分だ。真偽の 不確かな情報は、その手綱を握って操る事にこそ価値がある。 未だにわいわいと騒ぐルイズ達を一瞥し、クロコダイルは遅めの朝食 に手をつけた。 時刻は正午を少し回ったくらい。 雨の降りしきる中、ワルドは桟橋からの帰路についていた。たっぷり 時間をかけて停泊中のフネを全て調べた結果、定期便の貨客船は夕方の 天気次第で出港か欠航かを決める、という見方らしい。他の商船もほぼ 同じだ。 ただ、その中に二便だけ、急ぎの積荷で是が非でも今夜出港するフネ があった。何でも貴族派が無理を言ったらしい。船員達は愚痴をこぼし ながらも、今から風石を多めに積み込むなど念入りな出港準備を行って いた。 「予定は変わらない、か」 ぽつりと呟くと、ワルドは不意に横道にそれる。ほんの一、二分して すぐ大通りに戻ったワルド。 その路地の奥に、いつの間にか現れた二つの人影が歩み去った。 『金の酒樽亭』の羽扉が開く。中にいた傭兵達は一斉にそちらを見て、 すぐに視線を手元に戻した。入って来たのは、黒いマントに白い仮面と いう組み合わせの、昨日の青年と同じくらい怪しい人物だったのだ。 その何者かは脇目もふらずに店の奥のテーブルに足を運ぶ。そこでは、 昨日依頼を持ち込んだ青年が悠々と紅茶を楽しんでいた。今はローブを 脱いで横に置いているため、派手な縦縞の上着と奇抜な髪型が目立って 仕方がない。 が、彼はそれについて一切気にしていないようである。ティーカップ をソーサーに置くと、仮面の人物に馴れ馴れしく声をかけた。 「ふむ、やっとお出ましカネ」 「雨が降るとは思わなかったんでな」 仮面の——声からして男は、不愉快そうに呟いた。それを聞いた青年 も、呆れとも諦めともつかぬため息を吐いて額にしわを寄せる。彼らに とって、天気の悪化は予想外の、歓迎できない事態だったのだ。 「お得意の魔法で何とかならんのカネ?」 「馬鹿を言うな。天候操作は並の魔法とは訳が違う」 「ちょっとしたジョークだ、そうカリカリするな。で、フネは?」 苛立ちを滲ませた仮面の男に軽く手を振り、青年は本題を口にする。 仮面の男は、自身を落ち着かせるように息を吐いてから返答した。 「貴族派の急便が二つ、今から出港準備を始めている。 『マリー・ガラント』号と『ラ・デジラード』号、それぞれ硫黄と水の魔法薬を運ぶそうだ」 「行き先は、どの港カネ?」 「『マリー・ガラント』はスカボロー、『ラ・デジラード』はロサイスへ向かう」 「ならば、君が『マリー・ガラント』号、ワタシが『ラ・デジラード』号で決まりだな」 くくっと笑うと、青年はズボンのポケットから銀貨を数枚取り出し、 テーブルに置いた。今しがたの飲食代である。再びローブで身を覆った 青年は、去り際に店の中央へ視線を向けた。その先で大きな骨付き肉を かじっているのは、昨日彼が『まとめ役』と称したあの傭兵だ。 「すまないが、現場監督はこの仮面の彼に引き継ぐ。まぁ、しっかり働いてくれたまえ」 「言われんでもやるさ。しかし、そいつは顔を見せないのか?」 「余計な詮索は無用に願おう」 胡散臭げな顔でじろじろと仮面の男を見ていた傭兵は、男がマントの 下から杖を抜き出すと慌てて首を振った。 「わ、わかったわかった。俺だってまだ死にたくはねぇ、言う通りにするさ」 「ふん……貴様らはこちらの言う通り動けばいい。余計な事をしなければ、な」 「あまり関係をこじらせないで欲しいガネ。では、こちらは任せたよ」 軽く二度、仮面の男の肩を叩いて、ローブ姿の青年は『金の酒樽亭』 を後にする。後ろ姿を見送った男は、仮面の下で怜悧な光を宿した目を 細めた。 「随分時間がかかったな」 「ああ、ミスタ」 『女神の杵亭』へ戻ったワルドに、ロビーにいたクロコダイルの声が かかった。入ってすぐの椅子に腰掛け、のんびりと葉巻を吹かしている。 この『女神の杵亭』は、客室は臭いが染み付かないよう全室禁煙であり、 風通しのいい一階ロビー以外での喫煙は禁じられているのであった。他 にも数人、タバコやパイプを楽しむ客の姿がある。 「フネは出るのか?」 「定期便は様子見だそうですが、この分だと欠航になるかもしれませんね」 クロコダイルの問いに、ワルドは扉の外に目をやりつつ答えた。雨脚 は、弱まるどころか逆に激しくなっている。夜中までに止めばいいが、 望みは薄そうだ。 「二隻、急便で出港する商船がありますが……貴族派の依頼で、向かう先はどちらも軍港です」 「あまりあてにはせん方がいいな」 王党派の壊滅が時間の問題である以上、できるだけ早く目的の品物を 回収したい所ではある。が、こちらは六人の大所帯、しかも子供四人と いう悪目立ちする編成だ。定期便ならばともかく、商船では他の客の中 に姿を紛れ込ませる事ができない。それどころか、向こうの港に着いた 途端に警備隊に通報され、捕縛される可能性もある。王党派の協力者だ と発覚すれば全てお終いだ。 この任務でそんなリスクの高い賭けをする気など、クロコダイルには 毛頭なかった。同時に、お宝を諦めるつもりもない。 「最悪ガキ共を送り返して、子爵とおれだけでその商船に乗り込むか」 「その方がいいかもしれませんね。 僕なら“貴族派の一員”として行動できますし、ミスタは傭兵と言えば通るでしょう」 安堵の表情を見せるワルド。同時に、クロコダイルの中にある疑念が ますます膨らんだ。今のワルドには、それほど焦った様子は見られない。 彼が気にしている、もしくは気にしていた事は、一体何か。 昨日は丸一日気分を乱していた。しかしその前、クロコダイルが巻き 込まれた当初は、特にどうという事はなく平常そのものだったのだ。 子供達が加わって貴族派として動けないから焦っていた、というのは 考えにくい。ギーシュの参加が決まった時の態度を見れば、それは確実 である。あの時、ワルドは特に反対意見を口にしなかった。ギーシュは ワルドのように敵の信用を得てはいないし、クロコダイルのように傭兵 と言って誤摩化す事も難しい。気圧されていた事を差し引いても、その ような人間の参加に否定的ではなかったのだ。すぐ後にルイズが「行く」 と言った時は渋い顔をしていたが、貴族派の肩書きが使えなくなる点を 考慮すればギーシュの場合も同じ筈である。 (……待てよ) クロコダイルは今の思いつきを反芻した。ルイズが参戦を告げた時、 ワルドは歓迎していなかった。おまけに、ワルドとルイズは幼馴染みだ そうだ。クロコダイルはその辺りの事情をまるで知らないが、それでも 二人の間柄とワルドの焦りには関連性がありそうだと思える。ルイズが 危険な任務に参加する事を気にして、心に焦りが生まれたのだろうか。 (辻褄は合うが、確定とはいかんな) どうにも情報が少なすぎる。任務が終わって、ロングビルの調査報告 を聞けばもう少し事実に近しい推測もできるだろうが、今はこの程度が 限界だ。 「お帰りなさい、ワルド」 ふと、上からルイズの声がかかった。二階からワルドの姿を見つけた ルイズは、階段を下りてこちらに近づいて来る。 「桟橋はどう?」 「定期便は欠航になるかもしれない。急ぎの商船が二隻、出港準備をしていただけだ」 「そうなんだ。それじゃ、その商船に乗せてもらう方がいいんじゃない?」 「残念ながら、フネは二つとも貴族派の依頼で動くそうでね。しかも、どちらも戦地に近い軍港行きだ」 「貴族派の——」 思う所があったのか、ルイズの表情が何とも言えないものに変わる。 それを見たワルドは僅かに苦笑して、ルイズの頭を優しく撫でた。 「ほらほら、そんな顔をしてるとレディが台無しだぞ」 「むぅ、また子供扱いして」 他愛ない会話。傍目には仲のいい兄妹か、あるいは親戚とでも映るの だろう。ただ一人、ワルドに疑いを持つクロコダイルを除いて。 「子爵、さっきの話だが」 葉巻を傍らの水桶に放り込み、クロコダイルが声を発した、次の瞬間。 玄関口から飛び込んだ一本の矢が、その水桶をぶち抜いた。 ...TO BE CONTINUED
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/9723.html
キムラスカボーン(きむらすかぼーん) 登場作品 + 目次 アビス 関連リンク関連種アビス ネタ アビス 作中説明 レベル 30 備考 イベント HP 8600 TP 0 物理攻撃力 268 物理防御力 293 譜術攻撃力 297 譜術防御力 254 経験値 73 ガルド 45 耐性 - 落とすアイテム コバルトチャンバー(5%) 盗めるアイテム コバルトチャンバー(2%) 出現場所 東ルグニカ平野 (※基準は戦闘ランク:ノーマル。アイテムの数値は入手確率。) 行動内容 突きで前方の相手を攻撃する。 横に斬りつけて前方の相手を攻撃する。 槍を振り下ろして前方の相手を攻撃する。 槍を振り回して周囲の相手を攻撃する。 構えた後、突進して前方の相手を攻撃する。2HIT。 総評 戦争イベントに出現する槍を持ったキムラスカの下級兵士。 コバルトチャンバーを落とし、2HITする突撃攻撃を使うなど、色々上官より恵まれている。 一応、他の兵士よりは戦うメリットがあるが、下手に戦うとイベント終了後の報酬が減るのであまり良くない。 ▲ 関連リンク 関連種 アビス キムラスカナイト キムラスカルーン ▲ ネタ ▲